失火責任法の誤解

あなたがもし、何らかの事業(飲食店や物販店など)を営んでいるならば、今日の記事は役に立つと思います。

最近は、生命保険ではなく火災保険(損害保険のうちのひとつ)の記事が続いています。個人的には、「保険」といわれる以上は両者の本質はいっしょと考えていますので、引き続き伝えられることは伝えていこうと思います。

というか、どちらもきちんと理解している保険屋さんってすごく少ないんですよ、実際のところ。会社の棲み分けなど、いろいろな理由はあるんでしょうけれど、単に知らないだけなんじゃないのかなぁと思います。そういう保険屋さんに当たってしまうと不幸しかもたらしませんが、この辺りの話は機会があればいずれお伝えしますね。

今日も例によって、ある飲食店のオーナーさんからいただいた質問を取り上げます。「不動産屋さんから火災保険に必ず加入してと言われたのだけど、火事を起こしても法律があるから要らないと思う」という主旨の問い合わせでした。

要旨

よくある誤解で、完全なまちがいです。テナントであるからには、火災保険の加入は必須です。(万一の際に損壊部分をちゃんと弁済できる現金があるなら必要ないかもしれませんが)

少し法律の知識が必要になりますが、きちんと理解しておくことで「あの時ちゃんと入っておけば・・・」と悲しい思いをしなくてよくなります。

失火責任法とは?

おさらいになりますが、「失火責任法」では、「(重大な過失がある場合は除いて)火災で他人に損害を与えてしまっても損害賠償責任は負わない」と規定されています。つまり、例外はあるけれど、火災が原因で責任を問われることはないという趣旨の法律です。

着目してほしいのは、この「失火責任法」というのは何の条文にたいしての例外規定なのかということ。

民法709条「不法行為」

結論からいうと、失火責任法は民法709条(不法行為)にたいする例外規定になります。失火責任法は、まず先に709条があって、それを補完するための規定なのです。

私人の場合にはここで話は終わりです。「他人に弁済の義務はない」と、条文に書いてあるとおりですね。

民法415条「債務不履行」

ところが、飲食店などのテナント”契約”の場合には別の話があがってきます。入居の際、不動産屋さんで契約書を交わしたと思うのですが、そこには貸主(家主)と借主(テナント)の権利関係がつらつらと書き連ねてあります。

債権と債務。テナント物件を借りる(貸す)というのは、賃貸借契約なのです。当然ここには使用に関するルールがきちんと明記されています。(借主は)退去の際は入居時のようなまっさらの状態にして返却する、壊れた部分は修復して元通りにする、などです。

先ほどお伝えしたように、失火責任法は709条にたいする規定であって、415条にたいするものではありません。つまり、火事が起きてしまった時、709条を理由に「弁償して!」と言われることはないけれど、415条を根拠に弁償義務が発生してしまうのです(債務不履行)。

失火責任法の落とし穴は他にもある

失火責任法の対象にはならない範囲について、民法415条以外にも見逃しがちなポイントがあります。この際ですので、しっかりおさえておきましょう。

ひとつは「重過失(重大な過失)」の場合です。重大な過失・・・どういう例があるのでしょうか?過去の判例では、寝たばこ・天ぷら鍋の火(つけっぱなしでその場を離れた)などが重過失とされています。

もうひとつは、火事以外で損害が発生してしまった時です。失火責任法で規定されているのは、あくまでも火災のみです。ガス漏れによる爆発や破裂は対象外です。「爆発なんてマンガじゃないんだから」と思うかもしれませんが、携帯式ガス缶のガス抜きをしていた最中に引火してボカン・・・というのはよく聞く話です。

このように考えると、「火事の場合は法律で守られるから、火災保険には入らなくてイイ」というのは、大いなる誤解だということがおわかりいただけたと思います。そして、なぜ火災保険に入らなければいけないのか、その理由についても。

おわりに

特にテナントの保険は1年ないし2年更新ですので、うっかり更新し忘れていたということがないように気をつけてくださいね。あなたが事業を営んでいるならば、火災保険はコストというより「必要経費」です(会計上も「経費」として計上できます)。万一の際、お金の工面をしてくれるのは、銀行でも会計士でもありません。リスクヘッジできる先をきちんと確保しておきましょう。


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